vol. 4
2018年7月14日 公開
今回は「耐震基準」について解説をします。
この「耐震基準」も難しそうな言葉ですが、「旧耐震基準」や「新耐震基準」というワードはどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。
「耐震基準」とは文字通り、建物の耐震性をクリアすべき基準を表す言葉で、日本の全ての建築物は「建築基準法」という法律の中でそれが定められています。地震国である日本では、建物を建築するにあたり、地震に強い家であることは必要不可欠です。なので、当然その耐震性の最低ラインは法律で義務づけられているというわけです。
ところで、この「耐震基準」は建築基準法制定以来、何度も改正されていることをご存知でしょうか。そして更に興味深いことは、この「耐震基準」は日本に大地震が起こるたびに改正されているという事実です。下記はその大地震と建築基準法の改正の歴史です
そもそも戦後に制定された「建築基準法」はその2年前に起きた「福井地震」の被害状況を検証して制定されました。そして、1978年に起きた「宮城県沖地震」では、これまでの「耐震基準」をクリアしていた建物も多くの被害が起こり、これをきっかけに1981年に「耐震基準」をより厳しく改正されたのです。この時改正された基準を「新耐震基準」と呼び、現在のベースとなっています。
その後起きた「阪神淡路大地震」においても、この基準を満たすRC造や鉄骨造の建物については被害が少なかったのです。近年よく耳にする「旧耐震基準」と「新耐震基準」というのは、この時の基準の違いです。
しかし、現実には、RC造や鉄骨造においては特に大きく改正がなされたのですが、木造建築については、耐力壁の増加等にとどまり、根本的な改正まではつながらなかったとされています。1995年に「阪神淡路大地震」が起こり、建物の損傷の検証に基づいてその後の2000年の建築基準法が改正され、木造建築においての基準が厳しくなりました。
「阪神淡路大地震」では、木造住宅において次の被害や現象が多く、問題視されました。
そこで、接合部や柱脚部などの金物の仕様の明確化や、ねじれの原因である、壁のバランスのチェックなど、壁量以外の細かい部分まで改正されています。ちなみに、これらは「構造計算」の過程では必ず行われるチェック項目であり、「構造計算」をしていない木造住宅の弱さが大きく露出してしまった残念な事例でもあります。
また建物の耐震性を「最低の基準」だけで判断するのではなく、「耐震等級」などの性能を表示する方向性が定められたのもこの時です。
このように、これまでの大地震の被害の検証のもとに現在の耐震基準は存在しています。記憶にも新しい2016年に起きた「熊本地震」では、耐震等級3の木造住宅が倒壊したという事例もありました。これでまた何らかの耐震基準が改正されることもあるかもしれません。
1981年の新耐震基準以降は、構造計算によって耐震性を確保しているRC造や鉄骨造は被害が少ないのに対し、構造計算をしていない木造住宅にはまだまだ被害が多く、「壁量」の数や金物のチェックみで耐震性を確保することの限界を感じます。
このような大地震の歴史と耐震基準の改正の流れを見ていくと、最終的な耐震基準の改正は「木造住宅の構造計算義務」にあるのではないかと声を上げる専門家も多いようです。また、「耐震基準」とはあくまでも最低の基準ですので、その基準よりも少し余裕のある耐震性のある家を建てるということも考慮すべきことなのだと思います。
text.後藤俊二(住宅コンサルタント)