たちかわ・えいすけ●『NOSIGNER』代表。ソーシャルデザイン・イノベーション(社会によい変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。建築、グラフィック、プロダクト等のデザインへの深い見識を活かし、複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表。Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞など多数受賞。
ソーシャルデザイン・イノベーション(社会によい変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動する太刀川英輔さんが、
震災後に立ち上げたのは、災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」。その生い立ち、そしてこれからについて、話を伺った。
災害というマイナスから、プラスを生み出したい。
デザインファーム『NOSIGNER』(ノザイナー)代表の太刀川英輔さんが、災害時に役立つデザインやアイデアを共有するデータベースwiki「OLIVE PROJECT」を立ち上げたのは、東日本大震災発生からわずか40時間後。
「地震が発生してから、自分にできることをいろいろと模索しました。そのなかで手応えを感じ、3月13日の早朝に立ち上げたのがOLIVEの原型です」。
スタート時に掲載した「その場にあるもので生き抜く方法」は10点だったが、3日後にはその数が100になり、3月末には100万PVというアクセスにまで膨れていったという。
「『wiki』というシステムを使って、誰でも参加しやすい形にすることで、協力者がどんどんと増えて、大きなうねりになっていきました。このくらいの活動では大きな災害には、とうてい太刀打ちできませんが、人々の思いは東北へ届いたと感じています」
立ち上げ後、インターネット上の情報が数か月で収縮していくことに無力感を感じたという太刀川さんだが、「後に生かせる知恵」とすることを目指しOLIVEを継続した。震災直後は現場で役立つ情報だったものが、今度は未来への防災の知恵へと変わっていった。
被災の経験が、未来に残せる知恵となる。
太刀川さんは、震災で失われたマイナスをゼロに戻すだけでなく、プラスを生み出したいと考えている。
「千里の道も一歩から……と言いますが、でっかいことを考えながら、小さいことを始める。小さなことなら、構えずに始めることができる。たとえば、誰でも参加できることを『早く』始めてみる。すると、もっと上手にできる人が集まり、広がっていく。OLIVEがこれなのですが、できることを何か形にしてみること、考えることが、防災という面でも大事なのだと思います」と太刀川さん。
この場合、デザイナーだから、主婦だから、子どもだからといったことは関係ない。それぞれの場所でしたいこと、できることがあるのだから。「エマージェンシーが起こったら、挑戦したほうがいい」と太刀川さんは言う。OLIVEをきっかけにして、集まった知恵を生かした防災キット「THE SECONDAID」や、ソーラーパネルとバッテリーとWi-Fi設備を備え、災害時には完全オフグリッドの簡易避難施設になる公園の東屋など、新たなデザインも生まれている。
「たとえば頭がいい人は、ある程度先を読むことができるけれど、その場にいたまま考えるよりも、動いたほうがもっと先まで見通せます。やっぱり動くことが大事なんです」
東日本大震災という大災害は、多くのものを奪っていったが多くの知恵も集まった。昔からの知恵を思い出したり、現代ならではの知恵が発見されたり。ここから、また新しい「防災」が生まれ、プラスとなって未来へとつながっていくのだ。