加藤 篤さん
かとう・あつし● NPO法人『日本トイレ研究所』代表理事。災害時、山岳地や観光地、野外フェスなどにおけるトイレ計画、途上国のトイレ・衛生調査など、トイレ環境の改善を通して、地域社会に貢献することを目的に活動。東日本大震災では、避難所のトイレ清掃ボランティアを行うとともに使用状況や課題を調査し、関係機関に提言している。子どもにトイレやうんちの大切さを伝えるトイレ教育活動も行っている。www.toilet.or.jp
あまりに身近で、ふだんの生活では意識することが少ないトイレは、
私たちの生活と切り離すことができない大事な場所。
災害でトイレが使えなくなってしまったら……。
そこから起こるさまざまな問題に備えるべく、トイレから防災を考えてみよう。
災害時、必ず予想されるトラブルでありながら、注目されず、忘れがちになっているトイレの問題。食料や飲料の備蓄は意識しても、そのあとまで考える人は少ない。「大地震でトイレが使えないと、そこからさまざまな問題が発生します」と、NPO法人『日本トイレ研究所』代表理事の加藤篤さん。加藤さんたちは、トイレ環境から地域社会や地球のことを考え活動している。その柱の一つに、災害時の対策がある。
「大地震発生後は、多くのトイレが使えなくなります。見た目には壊れていなくても、断水なら水を流せないし、排水に不具合があれば、詰まってあふれて大変なことになる。家の倒壊を免れても、トイレのない環境では生活も成り立ちません」
避難所では、汚い、使いにくい、混んでいるなどを理由に、トイレに行きたくないと水や食事を控える人が多く、そこから体調を崩してしまうケースも。さらに、不衛生なトイレは感染症をも引き起こす。「東日本大震災では、避難生活で命を落とす人が少なくありませんでしたが、トイレの問題も関係があったと考えられています」と加藤さん。残念ながらこうした状況は、阪神・淡路大震災の頃から、あまり改善されていないという。
真っ先に考えたい トイレのこと。
では、どういう「ココロ構え」が必要なのだろう。「トイレは、仮設のものが地域に届くには時間がかかるため、身近なものを使うのが一番ですが、家のものはすぐに使えないと考えたほうがいい。だから携帯トイレは必ず備えてほしいですが、さらに家のトイレの現状を把握することも重要」と話す。
ところが、分業化が進んだ現代社会では、トイレの水の流れも複雑だ。上水管は水道局の管理で、上水が家にやってくると建築設備業者が手配した配管につながれる、そして便器メーカーの便器を流れて、設備業者による管を経て再び下水道管へと。こうなると誰に不具合を尋ね、復旧を頼めばいいのかがわからない。これからの社会は、関連業者同士が協働して対策を考えるのも重要だし、住人自らがチェックできる態勢をつくることも必須である。防災には「自助」「共助」「公助」があるが、トイレにおいても自助の分野はある。自宅や会社で確認項目・個所がわかれば、こうした情報は家族や職場の人と共有しておくのも大切である。
災害時、トイレに起きる問題や正しい使用方法について、加藤さんたちは「災害時トイレ衛生管理講習会」を開き、正確にオペレーションできる人材の育成もしている。「家、職場、避難所、それぞれの拠点で計画を立てておきたいものです。さらに防災訓練などを通じ、避難生活でのいつもと違うトイレ環境に、心と体で備えておくことも大事です」。
トイレをきっかけに、関連業者や同じ集合住宅に暮らす人、そして地域の人がつながっていくことで、防災態勢はより強固なものになっていくだろう。