コラム 地震のココロ構え

「小さな移動式」がつくり出す、居心地のいい場所。

2016/06/14

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鎌倉幸子さん

かまくら・さちこ●公益社団法人シャンティ国際ボランティア会広報課長。岩手事務所図書館事業スーパーバイザー。青森県出身。1999年3月、シャンティに入職。カンボジアへ赴任し、図書館事業を担当。東日本大震災発生後、岩手事務所を立ち上げ、「いわてを走る移動図書館プロジェクト」を実施。著書に、プロジェクトの誕生から現在までを綴った『走れ!移動図書館──本でよりそう復興支援』(筑摩書房)がある。


岩手県陸前高田市、大船渡市、大槌町、山田町に、
移動図書館を立ち上げた、鎌倉幸子さん。
走り出した移動図書館が、本とともに届けていたものは?
本箱を積んだ軽トラックからスタートした
この移動図書館は、被災者にとって、どんな場所なのだろう。


「小さな移動式」がつくり出す、居心地のいい場所。

水や食料と同じように、情報にも備蓄が必要だと考えています」と語るのは、『シャンティ国際ボランティア会』の鎌倉幸子さん。シャンティは、東日本大震災発生直後の2011年3月15日から支援活動を開始。鎌倉さんも岩手県入りし、自分たちにできる効果的な支援方法のリサーチを重ねた。そして、被災した人たちの仮設住宅への移住が整った時点で、津波被害の大きい岩手県陸前高田市、大船渡市、大槌町、山田町で、「いわてを走る移動図書館プロジェクト」がスタートした。
図書館は、いわば情報の備蓄倉庫だ。「パソコンを扱えなくても本ならば情報を得られる。まして電気が止まってしまうような場面では、アナログが圧倒的に有利です」。震災直後、被災地に入ってからは、実際に電気のない生活を体験した鎌倉さん。備えがないと携帯電話さえ使えないことを、改めて実感したという。「自分がアナログオンリーの状況に置かれたとき、どうなるかを考えておくのも、『地震のココロ構え』の一つですね」。

ニーズをキャッチし、
必要な人へと届けること。

移動図書館が走り出し、次第に利用者は増加していった。
「本は、人の気持ちを映す鏡。図書館で借りられている本を見れば、東北の人たちが、いま必要としている情報がわかります」。たとえば、町の過去の津波の記録や津波そのものに関する本は、自分たちが置かれた状況を客観的に把握したいというニーズ。そして新しい生活が始まると、「簡単調理」の料理本に人気が集まった。ここからは、仮設住宅の狭い台所で効率よく料理がしたい、買い物が不便になったので買い置きができる野菜を上手に使いたい、と考える生活の様子が見えてくる。
移動図書館のように 「小さな移動式」なら、行く先々で地域の現状を見てニーズを把握できる。それに家を長く空けられない利用者にも、近くまで行き重たい本を届けることができる。それだけではない。会話が生まれる場にもなる。「多くの利用者が、本を借りた理由を話してくれます。『手を動かしていないと、悪いことばかり考えてしまう』と編み物の本を借りた人は、その後『津波があり、失うものばかりだと感じていたが、自分にものを作り出すことができる』と喜びを語ってくれました」。
図書館のコミュニティとしての機能について、鎌倉さんはこう話す。「図書館はすべての人に開いています。たとえばカフェのような場所ならお茶を頼まないといられませんが、図書館は何時間いてもいい。図書館に行けば人との接点もでき、やがて自然と会話が生まれますし」。
移動図書館は情報を運ぶだけではなく、多くの被災者に希望や日々の幸せも運んでいるのだ。「『小規模』『移動式』は、図書館だけでなくこれからの社会、そして非常時の人と人をつなぐキーワード。『小さな移動式』なら初期投資が少なく、小さなコミュニティまで届けられる。こういう仕組みを、準備・構築しておくことが大切なのです」。

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